どこかにいってしまったものたちどこかにいってしまったものたち
クラフト・エヴィング商會

筑摩書房 1997-06
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さて此方は、
明治から昭和初期にかけてクラフト・エヴィング商會がお届け致しました、
数々の名品たちと、そのお取り扱い説明書きが集められた書籍です。

お品物を幾つか書き出してみましょう。

闇を生み出す ”アストロ燈”
涙を結晶化するという ”万物結晶器”
在りし日の姿を浮かび上がらせるという ”時間幻燈機”
散らかった思考を流暢な言葉に直す ”迷走思考修復機”
小さな星型のコンペイ糖のような素で作る ”流星シラップソーダ”

残念ながら不在品目録。これはは皆、どこかへいってしまったそうです。
でももしかしたらお爺様の引き出しあたりに、ひっそりと眠っているかもしれません。

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と、気取って書いてみましたが…(笑)
クラフトエヴィング商會及び、その商品は、
我々の住む現在の世界におきましては、架空の存在に位置致します。
別世界のカタログとでも申しましょうか。

ですが、写真、イラスト、デザイン、書体、文章、そのどれもがとても美しくて、
ページを捲るごとに、極上のレトロな空気を楽しめました。
名品を手にいそいそと帰り、こっそり包みを開ける紳士が浮かんだりも。

”どこかにいってしまったものたち”との事ですが、どこかにあってほしい、是非。

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塩狩峠 (新潮文庫)塩狩峠 (新潮文庫)
三浦 綾子

新潮社 1973-05
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明治42年2月28日。雪の中、列車は難所である塩狩峠の急勾配を上っていた。
しかし突然、最後部の連結が外れ、切り離された客車は猛スピードで峠を下り始める。
脱線や転覆は免れないだろうと、客車内はパニック状態に。

その時、デッキのハンドブレーキに向かったひとがあった。
偶然乗り合わせた鉄道職員(乗務員ではない)長野政雄さんである。

懸命なブレーキ操作によって速度は徐行程まで落ちたが、止まりきれない。
辺りはまだ峠の途中。再び加速する恐れもあった。
しかし、やがて客車は停止した。
…長野さんの身体に乗り上げるかたちで。

ひとりの尊い犠牲によって、乗客は全員無事であった。

…これは現実にあった事なのだそうです。
そして小説 ”塩狩峠”はこの実話を元にして書かれました。
そのがんぜなささえも可愛らしい少年が、惑い揺れる青年期を経て、
自分を律し、ひたむきに生き、そして”結納の日”に”あの峠”へ辿り着く物語です。

冒頭に聖書の”一粒の麦”のくだりがあります。
私はこの言葉の深いところを私はまだ理解出来ていないと思いますし、
特定の信仰も持っておりませんが、こころに置いておきたい言葉のひとつです。
そして重ねて、銀河鉄道の夜のジョバンニのことばを思い出しました。

僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼(や)いてもかまわない。
宮沢賢治著 / 銀河鉄道の夜 より引用)


…現在も2月28日の夜には、塩狩に長野さんを悼むアイスキャンドルが灯されるそうです。
あの事故に関する”事実”については、諸説あるようですが、
沢山の方々に愛され、沢山の方々を守られた長野さんに、慎んで敬意を表したいと思います。

冬の塩狩は勿論ですが、春の一目千本桜も是非いつか、見てみたいと思います。


余談ですが、
長野さんの命日でもある2月28日に、塩狩とこの小説を知った事には驚きました。
偶然とはいえ何か胸にくるものがありまして本屋へと走り、昨夜は一心に読んだのでした。


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捨て犬のココロ捨て犬のココロ
坂崎 千春

WAVE出版 2001-10
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わんこの写真集なのですが、ただ愛らしいというものではなくて。
いわゆる『収容施設』の中で撮られた写真です。
どの子もとても可愛いけれど、とても切ない。

以前、どうしても思うところがあって、
猫や犬の殺処分の過程を細かく書いたサイト様を見ました。
(※相当精神的にくるので、決してお勧めはしません。
勿論そのサイト様にも、何度もその注意書きがあります。)
本当に、いたたまれなかった。
いのちにも、手を下さなければならない立場の方にも、申し訳なかった。

私事になりますが、
私は7才の時に、ふらりと現れた野良の真白い仔犬にひとめぼれをしました。
すぐに仲良しになり、両親に何度もお願いをして、ようやく飼う事を許して貰いました。
けれどわくわくと迎えに行った時、
彼は見知らぬおじさん達につかまえられ、連れてゆかれるところでした。

思えば、保健所に迎えにゆけばよい事だったのです。
けれどおいおい泣きながら帰宅した私の説明は、幼さとショックで支離滅裂。
動揺した両親もその時は、錯乱状態の我が子を落ち着かせるのに必死でした。
そしてそのまま、うやむやになってしまって。

あの子はもしかしたら、待っていたろうか。
この本のモデルのわんこさん達は、幸い貰い手の決まった『譲渡犬』さん達です。
あの子もどうか、どなたかに貰われて幸せになっていて欲しい…と、
祈るように、思っています。

もし将来、わんこと暮らすような機会があったら、
私は最後の最後まで、共にありたい。もう決して手を離さない。




輪違屋糸里 上輪違屋糸里 上
浅田 次郎

文藝春秋 2007-03
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壬生義士伝で浅田次郎の書く新撰組関連が好ましいと思ったら、
そのまま輪違屋糸里に進んで損はない、と私は思ったり。
まぁ好みは色々なので断言は出来ないのですけれど。

壬生義士伝は、あまり著名でない隊士を主役に置いたものでしたが、
この輪違屋糸里もまた、島原の天神である糸里という女性が主役です。
でもどちらも、脇もしくはちょっと脇位置である有名隊士もとても良い味を出していました。

女性視点からの幕末。糸里以外にも色々な女性が登場します。
音羽太夫、糸里天神、吉栄天神、おまささん、お勝さん、お梅さん、などなど。
どの方が一番幸せに感じるかも、共感出来るかも、きっとそれぞれかと。
もしかしたらちょっと少数派かもですが、私はお梅さんが、好き。

一箇所だけ思わず大笑いしてしまったシーンがありました。

表向きは名誉や国の為。でも内心お給金も結構期待しアテにしてる隊士達。
そんな事もあって和やかな宴席。
しかしそこにお上から、お給金を充分には払えないというお話が。
見事なタイミングでお座敷に吹きこむ凍えた風。ごーんと鳴るお寺の鐘。
…暫しの沈黙。そして取り繕う大笑い。しょんぼりな帰り道。

全体的にはやはり切ないお話だけれど、其処は本当に可笑しかったです。

女性読者ならではの感想かもしれませんが、
不器用に胸を張る殿方ってのは何処か可愛い。また、格好良くもある。
でもずるい。お立場を判ってはいても、理解出来ない時もある。

そんな時女はどうしましょうね。
それでも着いて行くのか、支えるのか、否ときっぱり言うか、独りで生きるか。
そういう事をしみじみと考えるお話でも、ありました。

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壬生義士伝 上   文春文庫 あ 39-2壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2
浅田 次郎

文藝春秋 2002-09
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今年最初に読んだ本。
御正月辺りはね、お侍さんや雪の描写が出てくるものが読みたくなるんです。
新撰組もの、大好きだし。

以前一度読んでいたのですが、あまりにおいおい泣いたので危険を感じ(笑)、
再読は暫く封印しておりました。

家族愛、友情、同士の思い、勿論そういうものにもとても感動したのだけれど、
もうひとつ。ぽつりとね、小さいのにとても重い一粒が、こころに残ったのです。
それは、お米。

同士に手渡す半ば凍った握り飯。
これで充分と口にした御飯粒。
最後の夜にそっと運ばれた、帰る事が叶わない故郷の米の握り飯。
そして、ある人がある地へと運ぶ稲の苗。

繋がってゆく想い。傍らにひっそりと居る、とても大切な一粒。
その存在を感じながら読むのも、
このお話のまた一つの楽しみ方ではないかと、思いました。

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